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【第三回】サステナブルなアフターサービスを目指して。「補修用部品10年保有」担当部署の一人の社員から生まれた「魔法のかまどごはん」

タイガー魔法瓶は昨年、自社初の電気を使わない野外炊飯器「魔法のかまどごはん」を発売しました。電気やガスを使わずに新聞紙一部でごはんが炊けることから、防災やアウトドアにも役立つ炊飯器として反響を呼んだタイガーの中でも一風変わった商品。その誕生背景にもタイガー流のアフターサービスが関わっていました。「魔法のかまどごはん」の企画担当者であるプロジェクトリーダーの村田勝則さんに話を聞きました。

本日お話を伺うのは

タイガー魔法瓶
商品企画第2チーム/村田勝則さん(魔法のかまどごはん プロジェクトリーダー)
入社後、品質管理チームに29年間在籍し、発売前の製品の品質確認、発売後の製品の品質維持、お客様への対応と品質保証面でのプロセスに長く携わる。2019年より、CS(カスタマーサービス)推進室にてアフターサービスに関わる企画を推進した後、社内公募制度(シャイニング制度)にて「魔法のかまどごはん」の商品企画開発を行い、2022年より現職。

Q1.はじめに、社内公募制度から生まれた「魔法のかまどごはん」について教えてください。

村田さん電気やガスを使わないのが最大の特長で、新聞紙一部(3合なら36ページ分)さえあれば「炊きたて」のごはんを炊くことができます。かまど下部の2つの穴に交互に新聞紙を入れて火をつけることの繰り返しと、簡単に炊飯できて、もしもの被災時には防災用として、普段はアウトドアやキャンプなどでご活用いただけます。

Q2タイガーの通常の製品ラインアップとは少し異なる商品ですが、どのような発想から生まれたのでしょうか?

廃棄予定の内なべを有効活用し、社内公募へ

村田さん:私は長らく品質管理やアフターサービスに関わる部署にいましたが、直接「ものづくり」に携わってみたいという気持ちがあり、社内公募で新たな商品やサービスを提案する「シャイニング制度」には例年、積極的に応募していました。当時、CS(カスタマーサービス)推進室という部署で、修理用に保管していた廃棄予定の内なべを有効活用したいというアイデアから生まれました。

Q3その廃棄予定の内なべとはどのようなものでしょうか?

村田さん:当社では修理用の補修用部品を業界水準より長く10年間(※)保有しています。例えば炊飯器なら製造業表示規約で、保有期間は製造打ち切り後6年とされていますが、当社は2019年に、お客様に愛着ある家電を長く使っていただくために、保有年数を延長しました。補修用部品を10年保有することで、その分お客様が製品を長く使うことができ、サステナブルな面もあるのですが、10年先までの部品の必要数をぴったりと予測して保有するのは難しい部分があります。当時私がいたCS推進室は「補修用部品10年保有」の担当部署でもあり、システムを使うなどして必要数の予測精度を上げようとしていましたが、どうしても発生する廃棄予定の内なべを何とかしないといけないという課題感がありました。


※ 材料調達や設備状況等によっては10年未満で供給できなくなる場合があります。
※ 10年間保有しない補修用部品も一部あります。
※その他、10年間保有の詳細条件は詳細ページをご参照ください。

https://www.tiger-corporation.com/ja/jpn/about-us/after-service/

Q4そこからどのように「魔法のかまどごはん」のアイデアが膨らんだのでしょうか?

きっかけは大学時代のアルバイトから

村田さん:炊飯器の内なべには水目盛がついているので、やはりごはんを炊くことに使いたいと思っていました。アウトドアでごはんを炊く道具はありますが、そのような容器の水目盛は外側や一方向にしかついていないこともあり、炊飯器のように両方に水目盛があってしっかりと水加減ができる内なべをアウトドアで使うのは理にかなっているように感じて、直火でごはんが炊ける炊飯器が頭に浮かびました。
 新聞を使うという発想は、大学時代に野外活動施設でアルバイトをしていたときに新聞紙でごはんを炊いた経験から出てきました。当時はあまりおいしく炊けなかったのですが、今の自分なら炊飯器の品質管理で培った経験があり、ごはんをおいしく炊くための加熱プログラムが分かっているので、新聞紙の直火でおいしい炊き方を実現できる自信が湧いてきて試作を開始しました。

Q5「 魔法のかまどごはん」の開発は順調でしたか?

村田さん:新聞紙では火力に不安があったので効率よく内なべに熱を伝えるように「かまど」の部分で工夫を重ねました。ホームセンターや100円ショップを回り、市販の植木鉢や金属製の洗濯カゴを加工するなどして試作と炊飯実験を繰り返した結果、試作品は70台以上に及びました。

初期では新聞紙を入れる穴は一つだったのですが、燃え残りがあり安定して火力を維持することが難しかったため、穴を二つにして左右交互に入れていく方法をとりました。「はじめチョロチョロなかぱっぱ」の要領で新聞紙の投入タイミングを決めていき、手順通りに炊飯すれば簡単にごはんが炊けるようになりました。

Q6魔法のかまどごはんの反響と今後の構想を教えてください。


村田さん:昨年10月に販売開始した一般向けモデル「KMD-A100」は私一人で開発を始めたときには考えられないほど想像以上の反響をいただき、「防災用として購入したが、思っていたよりもずっとおいしく炊けて、感動した」「子どもたちと新聞紙をさいて作るところから燃やすところまで、楽しくできて良かった」など嬉しいお声をいただいております。
一般向けモデルに関しては専用の内なべを新たに生産して使っており、元々の課題であった廃棄予定であった炊飯器の内なべに関しては、アウトドア施設や公共団体などに、業務用モデル「魔法のかまどごはん KMD-B101」(数量限定)として、展開しております。
青少年教育や防災訓練・地域の防災備蓄など、多くの機会でご活用いただくことを目指しています。

春にはこの業務用モデルを使い、国立能登青少年交流の家で炊飯体験を行いました。能登地区の小・中学生などを対象に、集団での体験活動を通して心身ともにリフレッシュしてもらうことを目的としたイベントでは、炊飯体験で見られた子どもたちの笑顔が心に残っています。

4月には能登震災で寮が損壊し、国立能登青少年交流の家に宿泊している石川県七尾市の高校生と、同所に宿泊している龍谷大学ボランティアセンターの学生たちと一緒に炊飯体験会を実施しました。被災地では電気・ガスの復旧が進んでいますが、あたたかくておいしいごはんを食べると自然とみな笑顔になれます。今後も全国の野外活動施設で「魔法のかまどごはん」の炊飯体験を提供するなど、より多くの方に製品を知っていただけるような活動を続けていきたいです。

Q7最後に読者へのメッセージをお願いいたします!

村田さん:品質管理チームでのものづくりでの経験や、アフターサービス業務での補修用部品10年保有の取り組みからこの「魔法のかまどごはん」という製品が生まれました。お客様の中にはそもそもメーカーが補修用部品を保有しているという存在自体を知らない方が多く、「炊飯器って本体丸ごとでなくて、内なべだけでも交換ができるんだ!」というリアクションをされる方もいらっしゃいます。パッキン一つでもなくなればその製品は使うことはできないので、部品がなくなったり壊れたりで、泣く泣く気に入っている製品を買い替えているお客様にぜひ補修用部品10年保有の取り組みを知っていただきたいです。

日常生活の中で愛着のあるものってなかなかありそうでないと感じます。炊飯器は「前よりごはんがおいしくなった!」と感動してもらえれば比較的長く使っていただける商品ですし、ごはんを炊いて毎日家でおいしく食べることは大きな価値のあることだと思います。製品にはどうしても寿命がありますが、「補修用部品10年保有」の取り組みを知っていただき、タイガーのファンになっていただければ嬉しい限りです。