おいしいごはんの炊き方
食べることで、わたしたちが得られるものはなんでしょう。
「おいしい!」という感動や驚き、そして家族の団らん。そしてもうひとつ大切なことは、「健康」です。たのしく、おいしく食べることで、体を健やかに保つ。「食」のきほんとなるお話を、料理のプロに伺います。
山梨県北杜市でレストランDILL eat,lile.を営む料理研究家の山戸ユカさん。生まれ育った東京から自然豊かな土地に移り住み、玄米菜食料理を中心とした「身体も心も元気になれる食」を発信しています。今回は3回に分けて、山戸さんの考える「健やかな食」についてお話を伺います。
「25歳を過ぎて気づいた食の大切さ」
「玄米菜食」と聞くと、「ストイックそう」と思ってしまう方も多いかもしれません。私が玄米菜食に取り組み始めたのは15年ほど前ですが、その頃はまだ「マクロビオティック」などの考え方もほとんど知られていなかったので、自分で色々な食生活を実践してみて、ようやく自分なりの「健やかな食」というものにたどり着いたという感じです。
玄米菜食に興味を持ったのは25歳くらいの頃です。当時は東京の飲食店でシェフとして働いていて、好きなものを好きなように食べる生活。お酒も夜遊びも大好きで(笑)。年齢とともに体が変わってきたなと思い始めたのもその頃です。脂っぽいものを食べた翌日は体が重いなとか。このままの食生活をしていたらまずいんじゃないかと気づいたわけです。
そんな時にたまたま雑誌で見つけたのがマクロビオティックという食事法。最近は実践している方も増えていますが、基本的な考え方は穀物や野菜、海藻などを中心に日本の伝統食をベースにした食事を摂りましょう、元々日本人がしていた食生活をすることで、本来あるべき健康、健やかな暮らしを取り戻しましょうというものです。
日本はもともとお肉をたくさん食べるような食文化ではありませんから、本来の食生活を送ろうと思うと自然と動物性のものは少なくなります。そう考えると、確かにそれまでの自分は欧米人のような食生活。それでは体に不調が出てきても仕方ないかもしれません。
「丸ごと食べれば、体もよろこぶんです」
そこでまず意識するようにしたのは、マクロビオティックの基本的な考え方のひとつである「一物全体」というもの。食材を丸ごと食べることで、その食物の持つ栄養やエネルギーをバランスよく摂るということです。実は私たちが日々食べている料理は、食卓に上がるまでにいろいろなものが削ぎ落とされているんですよね。
例えば白米は精米されて糠層や胚芽が取り除かれていますし、野菜は皮や根が削がれています。考えてみるとこれらは全部、祖父母の時代に食べられていたもの。食物繊維が豊富ですから腸内環境が整って代謝も良くなります。こうした食事をすると、太りすぎていた人は痩せて、痩せすぎだった人はふっくらしてきます。日本人本来の食事を摂ると、体調や体型もあるべき状態に戻るのですね。
でも、「体に良くても、おいしくないものは食べたくない」というのが誰しもの本音ですよね。実際、私もはじめて玄米を炊いて食べたときは「パサパサだ!」と思いました。でも炊き方を工夫したら、ふっくらしつつも玄米独特のプチプチした食感が楽しめるようになりました。例えばブロッコリーや菜の花、春菊の根の部分。硬くて食べづらいかなと思いますが、細く切って熱を入れるとコリコリとした食感がいい。「おいしくない」というのは、食材ではなく、調理方法にも理由があったのでしょうね。
手探りで始めた玄米菜食ですが、試行錯誤するうちにわかってきたのは、「おいしければ続けられる」ということ。「健康のために我慢して食べる」というのでは誰だって続けられません。だったら、「おいしくて、健やか」を両立できる料理があればいい。そんな思いが、私の料理の基本になったのでした。
山戸ユカさんのおいしくて健やかな料理①
玄米とまるごと春菊のかき揚げ定食
『春菊と白いんげん豆のかき揚げ』
捨ててしまいがちな春菊の根元も、かき揚げにすれば風味と食感のアクセントに。ふっくら炊いた玄米と野菜たっぷりのお味噌汁があれば、大満足の定食になります。
〈材料名〉
- 春菊 1/2束
- 玉ねぎ 小1/2個(スライス)
- 白いんげん豆の水煮 1/4カップ
- 小麦粉 大さじ3(27g)
- 片栗粉 大さじ1(9g)
- 塩 ひとつまみ
- 水 大さじ1(15mL)
- 揚げ油 適量
作り方
- 春菊は茎と葉を分け、茎は斜め切りにスライスする。
- ボウルに1の春菊と玉ねぎ、白いんげん豆を入れて軽く混ぜる。
- 2に小麦粉と片栗粉、塩を加えてよく混ぜ、全体に粉をまぶす。
- 3に水を加え、全体がもったりとくっついてくるまで混ぜる。
- 180℃の油で揚げる。表面を叩いてコツコツと固い感触になったら揚げ上がりです。
料理:山戸ユカ 撮影:平野太呂 文:小林百合子
山戸ユカ
(やまとゆか)
料理研究家。東京都出身。2013年に山梨県北杜市に夫ともに移住。レストランDILL eat,lifeを営む。地元産の有機野菜を使い、玄米菜食を中心とした料理を提供する。近著に『DILL EAT,LIFE. COOKING CLASS』(グラフィック社)。