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―Z世代が問う― タイガー魔法瓶とSDGs Vol. 3 環境先進都市・亀岡市と目指す「使い捨て文化からの脱却」
タイガー魔法瓶㈱と京都府亀岡市は、2021年7月に「かめおか未来づくり環境パートナーシップ協定」を締結し、使用済みステンレス製ボトルの回収と再資源化のサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に取り組んでいます。亀岡市では、約20年前に始まった保津川(一級河川桂川)の清掃活動をきっかけに、保津川流域の環境保全に取り組むNPO法人プロジェクト保津川の設立や内陸部の自治体で初となる「海ごみサミット」の開催など、行政や市民による環境保全の取り組みが行われてきました。2018年には亀岡市議会とともに「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を行い、全国で初めて市内店舗でのプラスチック製レジ袋の提供禁止を打ち出すなど環境先進都市としての取り組みを進めています。今回は、亀岡市とタイガー魔法瓶㈱が目指す持続可能な社会の実現に向けた取り組みについてインタビューしました。
亀岡市の関係者の皆さま
大阪商業大学公共学部 准教授 /NPO法人プロジェクト保津川 代表理事
原田 禎夫(はらだ さだお)2005年大阪商業大学経済学部専任講師を経て、現職。
近年深刻な問題となっている海や川のプラスチック汚染について、内陸部からのごみの発生抑制の観点から取り組むとともに、京都・保津川をフィールドに筏流しの復活や天然鮎の復活、内水面漁業の振興など川の文化の再生と伝承に取り組んでいる。
亀岡市環境先進都市推進部長
山内 剛(やまうち つよし)1991年に亀岡市役所に入庁。全国初のプラスチック製レジ袋の提供禁止条例の制定に尽力するとともにパラグライダーの生地を再利用して新たな価値を生み出す「KAMEOKA FLYBAG Project」など、楽しく、オシャレに使い捨てプラスチックごみ問題に取り組むことができる環境づくりに携わる。現在は新たな施策「リバーフレンドリーレストランプロジェクト」「亀岡のおいしい水スポット」づくりなど、ペットボトルをはじめ、使い捨てプラスチックごみゼロを目指す市の環境政策を担う。2021年4月より現職。
亀岡市環境先進都市推進部環境クリーン推進課長
大西 光治(おおにし みつはる)1988年に亀岡市役所に入庁。一般廃棄物の適正処理や更なる資源化を推進するために、亀岡版ゼロエミッションの策定に携わり、計画に基づき、最終処分されていた廃棄物の大幅な減量に取り組む。また、積極的に民間事業者と連携し、焼却処分していた羽毛布団や埋め立て処分していた、ステンレスボトルや小型家電類などの資源化を進めてきた。2016年4月より現職。
大切なのはきっかけづくり
―使い捨て文化からの脱却に向けた地道な取り組み
氏田 ステンレス製ボトルの回収とリサイクルを通して循環経済の実現を目指すということですが、ボトルのリサイクルで実現できるものなのでしょうか。具体的にどのようなステップで循環経済を実現するのですか。
西 「循環経済を実現する」というゴールだけを見てしまうと、実現はとても難しいもののように思えますね。このステンレス製ボトルのリサイクルの取り組みは、循環経済を実現するためのきっかけの一つにすぎません。
大西 亀岡市では、2020年にプラスチック製レジ袋の提供を全面的に禁止する条例を制定しましたが、廃棄物全体の量に対してレジ袋の量は非常に小さいですよね。でも、禁止にすることで人々が環境に目を向け自分たちの暮らしを見直すきっかけになります。今回の取り組みを通して、今までとくに意識することなく捨てていた、古くなったマイボトルが回収・リサイクルされて生まれ変わるということを意識するようになるはずです。
山内 プラスチック製レジ袋の禁止は「使い捨て文化からの脱却」のためのきっかけ作りです。少し前の時代は、買い物かごを持って買い物に行くのが当然でしたが、いつの間にか使い捨てレジ袋というものが利便性ゆえに広まり、今ではそれが当たり前になっています。
氏田 物心ついた頃から、レジ袋は常に生活の中にあったので使い捨てて当然だと思っていました。「使い捨て文化」は人々の意識が作り出したものだと言えますね。人々の意識を変えることがやがて社会全体の文化を変えることに繋がるんですね。
南村 この取り組みを通して、ステンレス製ボトルの自社でのリサイクルが実現したとしても、地球環境が劇的に変わることはないと思います。しかし、タイガー魔法瓶㈱の社員をはじめ、使用済みステンレス製ボトルの回収に参加してくださった方々の意識は間違いなく変わりますし、消費者の皆さんと意識や思いを共有できれば、それがSDGsの達成に繋がると信じています。
「当たり前」を変える ―教育とアートからのアプローチ
氏田 先ほど、プラスチック製レジ袋提供禁止条例についてのお話がありましたが、市民からの理解や協力はどのように得られたのでしょうか。今まで当たり前だったのもが突然禁止される形になって、反対の声も大きかったのではないでしょうか。
山内 とくに事業者からの反対は大きかったです。亀岡市での買い物が不便になるので、お客さんが減ってしまうのではないかという懸念があったからです。プラスチック製レジ袋提供禁止の条例については前例がなかったので、理解を求めるのは難しかったですね。市民の皆さんに対しては、亀岡市の全地域で説明会を実施し、このプラスチック製レジ袋提供禁止をきっかけに意識を変えていかなくてはいけないということを痛切に訴え続けました。すると、説明会の後のアンケートでは、7割の方が賛成と回答してくれたんです。こうした市民の環境問題に対する意識の高まりを背景に、反対していた事業者の方からも「消費者である市民の皆さんにしっかりと理解していただければ、これは実現可能である」と、賛同を得ることができました。
原田 亀岡市の環境問題への取り組みは、約20年前に始まった保津川の清掃活動でした。市民主体で行われているこの活動はまもなく120回を超えます。条例制定以前から市民の皆さんが環境問題に対する意識を持っていたというのも、条例化を実現できた大きな理由だと思います。今では亀岡市ではレジ袋をもらっている姿はほとんど見られません。市民の方から、市外に出たときにレジ袋をもらえることに驚いたというお話を聞いたのですが、「レジ袋はもらわないのが当たり前」というように意識の変化があったということです。これは嬉しかったですね。
氏田 市民が主体となる活動を継続してきたことが、環境先進都市の土壌となっていたんですね。亀岡市では、子どもたちへの環境教育にも力を入れているとお聞きしました。
山内 これからの未来を担う若い世代には環境問題をしっかり捉えて欲しいので、亀岡市では保津川をフィールドにした環境学習を取り入れています。清掃活動も含めて、小学生はラフティングを、中学生は保津川下りを卒業までに全員が体験します。高校では、環境保全のために自分たちに何ができるのかを自主的に考える授業を行っています。マイボトル普及のために給水スポットを増やす活動をしたいということで、高校生が給水スポットについてのポスターを作成し、市の職員と一緒に亀岡市内の飲食店などを回りました。
氏田 ただ受け身な姿勢で机の上で勉強をするだけでは記憶に残りませんが、フィールドでの学習なら体を使って楽しみながら環境について学ぶことができますし、高校生も自分たちの考えた案が実際に市で採用されるのはとても嬉しいですね。環境問題に対して主体性を持って取り組むことができるのはとても貴重な経験だと思います。
山内 五感で環境問題を捉えてもらうために、まちづくりにアートを生かす取り組みも行っています。「KAMEOKA FLYBAG Project」では、パラグライダーの生地を使ってアーティストさんが作成した7~8メートルの巨大なエコバッグをクレーンで掲げて展示しました。その後、一般の方々も参加して生地を切り取ってオリジナルのエコバッグを作りました。この取り組みは、「HOZU BAG」としてブランド化され、販売されるなど、経済活動にも波及効果をもたらしています。
山内 こうしたアートを取り入れた取り組みや、プラスチック製レジ袋提供禁止条例など様々な環境政策を展開したことで、亀岡市への他市からの視察の件数はかなり増えました。今後も活動を続けることで、他の自治体との連携や、企業や団体の皆さんと一緒に横展開をしていくことを目指しています。魅力ある事業を発信していきながらどんどん環境活動の輪を広げていきたいです。
保津川下りの船頭さんが立ち上がって清掃活動が始まったのは約20年前。今ではプラスチック製レジ袋の提供を全面禁止するまでに至りました。段階を踏んで少しずつ市民の意識が変化し、まさに今、亀岡市は使い捨て文化から脱却しつつあります。今回のタイガー魔法瓶㈱と亀岡市のサーキュラーエコノミーのモデルが現実化し、他の自治体や企業もそれに倣う形でこのモデルが広がっていけば、日本全体、やがては世界全体が持続可能な社会へと変わっていくのではないかと思います。そのためには、まずは私たち消費者が考え、少しずつでも行動を変えていくことが必要です。今の消費文化を作っているのは、消費者である我々自身だということを忘れてはいけないと感じました。
次回は、ステンレス製ボトル回収ボックスを配置した、亀岡市内の中学生にインタビューを行います。亀岡市で環境教育を受けた生徒の皆さんは、環境問題をどう捉えているのでしょうか。
ライタープロフィール
現役大学生・氏田
国際協力学科の大学3年生。難民問題や環境問題、宗教など幅広く勉強中。現在インターンをしながらマーケティングを学んでいる。SDGsを達成し、世界から少しでも貧困をなくしたいと思っている。