産業機器ソリューションの開発エピソード

タイガー魔法瓶が新開発した断熱材「ステンレス密封真空断熱パネルTIVIP(ティビップ)」誕生秘話

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磨き続けた「真空断熱技術」で100年の歴史に新たな挑戦。
魔法瓶の老舗メーカー・タイガー魔法瓶が新開発したCO2排出量削減に貢献する
「ステンレス密封真空断熱パネルTIVIP(ティビップ)」の誕生秘話

タイガー魔法瓶は1923年に日本国内向け「虎印」のガラス製魔法瓶の製造で創業し、独創的な工夫の積み重ねと真摯なモノづくりで、ぜいたく品だった魔法瓶を日常品として皆さまのご家庭にお届けしてきました。2023年2月に創立100周年を迎え、真空断熱ボトルに代表される「真空断熱技術」と、1970年に誕生した電子ジャーを初めとする炊飯器などの「熱コントロール技術」を用いた製品づくりで、「世界中に幸せな団らんを広める。」というVisionの実現を目指しています。
現在は世界約60か国以上で真空断熱ボトルや炊飯器などの調理家電を展開するほか、輸送・建築・宇宙・医療等の分野での産業用部品及び製品の製造販売を行っています。

そのタイガー魔法瓶より、次の100年への挑戦として立ち上がった新事業が「ステンレス密封真空断熱パネル」です。この革新的な断熱材は、脱炭素化社会の実現に向け、CO2排出量削減が急務となる輸送業界をはじめ、様々な分野で貢献する技術として期待されています。この度、2025年大阪・関西万博会場内外での保冷輸送での活用も決定しました。

真空断熱ボトルなどの「水筒」の老舗であるタイガー魔法瓶が、なぜ物流業界や建築業界で使用される「ステンレス密封真空断熱パネル」の開発に動き出したのか、その開発秘話について真空断熱パネル プロジェクトリーダーの 南村 紀史 に話を聞きました。

真空断熱パネル プロジェクトリーダー 南村 紀史(みなみむら のりひと)

ステンレス密封真空断熱パネル TIVIP(ティビップ)とは

パネル内部を真空状態にすることで熱伝導を非常に低く抑えた高性能な断熱材です。一般的な真空断熱以外の断熱材と比較して、非常に薄い厚みでも高い断熱効果を発揮します。この特性により、省エネやスペース効率を重視する分野での使用が期待されます。また、ステンレスの使用により、従来の非ステンレスの真空断熱材では得られなかった不燃性と高断熱性の長期間維持が可能となりました。

開発のきっかけ:
身近な「水筒」で磨き続けた技術を産業用にも。温暖化社会の解決に貢献したい

私たちタイガー魔法瓶は100年以上にわたり、魔法瓶の開発・製造を通して培ってきた「真空断熱技術」があります。「真空断熱技術」は、電気を使わずに保温・保冷ができるシンプルかつ無限の可能性を秘めた技術であり、サステナブルな技術として注目されていることはもちろん、場所や環境に関係なく応用できるという大きなメリットがあります。

現在もさまざまな領域での技術開発が進行中で、2018年より、国際宇宙ステーションから貴重な実験サンプルを輸送するための「真空二重断熱容器」を開発して宇宙開発にも携わっています。過去には自動車用エンジン冷却水の蓄熱システムに真空断熱温水タンクが採用されたこともあります。

過去に採用された、自動車用エンジン冷却水の蓄熱システム

次の100年も皆さまに愛してもらえるような企業であり続けるために、この技術を活かして昨今の社会課題の解決に貢献できることはないか、と模索していました。

個人的にも過去、真空断熱ボトルの企画開発を担当し、タイガーボトルの環境配慮訴求や脱プラスチックごみなどを推進していた経験もあり、次は新事業でタイガーの次の100年に繋がるソリューションを生み出したいという想いもありました。

一筋縄ではいかなかった0.05mmの「箔」の加工への挑戦

現在の製品の基礎となるコンセプトが社内で立案されたのは実は10年前、2015年のことです。当時も既存の技術のかけ合わせでなにかできないかと新しい技術開発テーマを探索していました。そこで着目したのが「真空断熱材」。他社にもステンレス素材ではない「真空断熱材」が存在していますが、耐久性や不燃性という観点からは課題がありました。

ステンレス素材を使って真空断熱材をつくることができると、従来成し遂げられなかった長寿命を実現できる。理屈的には誰もが思いつくのですが、その加工難易度はステンレス製ボトル生産とは比較にならないぐらい高いものです。

南極での実証チャレンジ後、2022年に転機が…

2020年には南極などの過酷な環境でも効率的な保温を可能にする住宅用真空断熱パネルの実証を行いましたが、当時のものづくりでは手作業に頼る部分も多く、大量生産ができないという課題が顕在化することになり、それ以上発展させることはできませんでした。

当時を振り返る南村

「これを製品化できたらタイガーの次の100年に繋がるのに…」

悔しい思いを持ちつつも、社内にある既存のステンレスボトル用の加工設備だと、ボトルに比べて非常に薄いステンレスを加工する際に、一瞬で穴が開いてしまい、新しい加工設備を導入するにしても費用がかかる…

そのようなことを考えていた矢先、2022年に大阪府によるカーボンニュートラルに資する最先端技術の開発・実証にチャレンジする企業を後押しする「カーボンニュートラル技術開発・実証事業」が公募され、エントリーしたところ幸いなことに本事業が採択されました。そこで、私たちは溶接の手法自体を見直し、製造方法を変えることで再出発することができました。

具体的には、独自の溶接技術を開発することで、スピードアップと安定化を図りました。これにより、職人技に頼らず、誰が行っても同じクオリティで溶接できるようになり、量産化の目処が立ったのです。

ただ、プロジェクト採択後も、当初は試作品を作るたびに穴が開いてしまい、真空状態を維持できないという問題に悩まされました。何百枚もの試作品を作り、失敗を繰り返しながら、ようやく完成にこぎつけました。

なぜタイガー魔法瓶が「真空断熱パネル」の開発にチャレンジできたのか。
根幹にある想い

他社が行わないような、薄くて高性能な真空断熱パネルをなぜ、タイガー魔法瓶が開発できたのか。それは、100年以上にわたり培ってきた真空断熱技術と、JAXAからの依頼で国際宇宙ステーションから貴重な実験サンプルを輸送するための「真空二重断熱容器」を開発して宇宙開発に携わった経験があったからだと思います。

当時、JAXAプロジェクトで「真空二重断熱容器」を開発した際にも、社内の開発陣には高いハードルに対して、「他のメーカーが難しいと思うことでも挑戦してみよう」と技術で乗り越えようとする姿勢がありました。これを完成させれば世の中に貢献できる、という意義を見出し挑戦する企業姿勢が社内にあったことも、開発に踏み込めた背景のひとつです。そして、水筒という日用品にとどまらず20年前から取り組んでいる車載機器開発や、10年前から携わっている宇宙開発など、日用品以外の真空断熱技術開発の長年の実績が今に活かされています。

TIVIPを使用した保冷輸送器材は25年5月以降順次、万博内の保冷輸送にて活用される

「真空断熱パネル」を通して、タイガー魔法瓶が描く未来

「真空断熱パネル」をご紹介した、物流や住宅関連の企業の方からも「過去から常に検討してきた歴史がありながらも、実現できなかった真空断熱パネルを使った製品が実現したら凄い!期待できる」「寿命が長いということがメリット。使ってみたい。」という嬉しいお声をいただきました。

今後は、戸建ての住宅やリフォーム、倉庫、データセンター、コンテナハウスなどにも活用範囲は広がっていくと思います。私たちはこれからも、技術革新を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

ステンレス密封真空断熱パネル3つの特長

①高断熱
内部を真空状態としているため、熱伝導率約0.0025W/m・K以下※1と従来の断熱材の約10倍~25倍にあたる高い断熱効果を発揮します。

②長寿命
ステンレス素材の使用により、30年以上という長期間の真空断熱維持※2を実現しました。

③不燃性
ステンレス素材の使用により不燃性による安全性を実現しました。

※1 厚み10mm、サイズ440mm角以上の試作品をJIS A 1412-2 に基づき測定した初期測定値(自社測定法により算出)
※2 使用素材のガス透過性能実測値からの推計値(自社測定法により算出)

【2025年大阪・関西万博での展示】
・日時 : 2025年10月7日(火)~10月13日(月)
・場所 : 大阪・関西万博会場内(西ゲート側)
    フューチャーライフヴィレッジ フューチャーライフエクスペリエンス
・展示内容 : タイガー魔法瓶 ステンレス密封長寿命不燃真空断熱パネル技術開発・実証

[参考情報|タイガー魔法瓶]

タイガー魔法瓶の歴史は、その名のとおり、魔法瓶づくりから始まりました。1923年に当社として初の日本国内向け「虎印」のガラス製魔法瓶を作って以来、独創的な工夫の積み重ねと真摯なモノづくりで、ぜいたく品だった魔法瓶を日常品として皆様のご家庭にお届けしてきました。

 それ以来、真空断熱ボトルや保温ポットに代表される「真空断熱技術」と、1970年に誕生した電子ジャーを初めとする炊飯器などの「熱コントロール技術」を用いた製品づくりで、さまざまな暮らしのシーンに快適さと便利さを提供しています。

 当社のコア技術である「真空断熱技術」と「熱コントロール技術」を応用し、民間向け製品以外に、宇宙でのミッションをはじめ、シビアな温度管理が要求される検体・試薬などの医療輸送、ハイブリッド車のエンジン冷却水蓄熱システム、高断熱住宅を実現する次世代建材の開発など、時代をリードする最先端産業分野においても、チャレンジを続けています。

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