和食の主役は白いごはん。
ごはんを炊くことこそが、もてなしになるのです
祇園丸山(京都府)
数々の料亭が並ぶ祇園、花見小路の近くにたたずむ「祇園丸山」。この地で30年以上にわたり、和食を提供し続ける名店の店主・丸山嘉桜(まるやまよしお)さんにお話を伺いました。
じっくり熱を伝えると、ごはんが「むっくら」炊きあがる
──土の釜でごはんを炊くとなぜおいしいのでしょうか。
店主:有機質の土には通気性があるため、空気が入って対流を起こしよるんです。この対流が、お米をうま味のあるごはんに仕上げてくれるんです。だから私は「生きている土」で、「呼吸をしている土」で、お米を炊くことにこだわっています。
──土の釜で炊いたごはんは、どのような点が違いますか。
店主:火が釜の底から側面、そして上部にまで熱をじっくり伝えていく間に、お米が水を吸って「むっくら」炊きあがるんです。むっくらとは、まるでお餅がふくれた時のような、あのやわらかい感じですね。昔から「赤子泣いてもふた取るな」といいますが、それはこの「熱が伝わる時」のことなんです。
自然の持ち味を活かすことが、食文化の継承にもなる
──ごはんを炊く時に大切にされていることはありますか。
店主:自然の持ち味を生かすことです。土は鉄や銅とは異なり焼き物になってからも呼吸をしています。例えば岩絵具を膠で溶かすための雪平やお茶を煎るための焙烙など、粗土の器でなければ出ない色や味があります。
だから、お米の胚芽は洗い過ぎないように気をつけていますし、使う水は必ず天然水です。お米も土も「生きもん」ですから、そうした自然の食材や道具に感謝する気持ちを忘れないように。それが、先人が自然の中で育んできた食文化の継承にもつながると考えています。
──丸山さんにとって「ごはん」とは?
店主:お米は、日本人にとって特別な存在です。もちろん、料理人にとっても。つまり、白いごはんは和食の主役なんです。やはり和食の締めはごはんだと思います。そして、誰かのためにごはんを炊くことや、おかずをつくること、そのためにかける時間と心が一番の「もてなし」なんです。それは、うちみたいな料亭だけの話ではなく、ご家庭でも同じでしょう。
ごちそうとは、そこにいる人が笑顔になる食事のこと
──一般の家庭でもごはんを炊くことが、「もてなし」になるということですね。
店主:その通りです。ごはんが炊きあがるのをじっと待ち、ふたを開けると甘い香りがふわっと広がり、そこにいる家族や友人が笑顔になる......。「ごちそう」とはそんな瞬間であり、「もてなし」とはそういったひと時のことと思います。
──丸山さんにとっての最高のごはんの友を教えてください。
店主:やっぱり塩でしょうか。あんこの甘味を引き出すような「良い塩梅」こそ、ごはん本来の旨みや甘味を最も引き出してくれる存在やと思います。あとは味噌汁もいいですね。塩と味噌、これは日本人なら、ごはんと切っても切り離せない食材やと思います。
お料理だけでなく、空間のすべてを使っておもてなしをしたい
──祇園丸山では、どんなもてなしを心掛けていますか。
店主:もてなしの根本は、お店でもご家庭でも変わりません。ただ、やはり料亭である以上、ご家庭では味わえないもてなしを提供したい。ですから、うちでは「五味五感」で味わっていただくおもてなしを心がけています。
──五味五感とはどういうことでしょうか。
店主:食材は旬のものにこだわり、産地も十分吟味して使う、これは当たり前。その上で、お料理のおいしさを引き立てる器や、季節を感じさせる活け花、さらには掛け軸や従業員の着物まで、いろいろなものが重なり合って、おもてなしは完成するんです。
──すべてに気を配るということですね。
店主:そうです。料理は「五味五感」が大事というように、あらゆることに気を配り、お料理を含めた「景色」を表現したいと思っているんです。お越しいただいたお客様には、ぜひとも料理を通してその景色を感じていただき、日本の伝統文化の一端にふれる喜びを感じていただけたら幸いです。
祇園丸山
京都市東山区祇園町南側570-171
電話 075-525-0009
営業時間 (昼)11:00~13:30(最終入店)
(夜)17:00~19:30(最終入店)
定休日 水曜
建仁寺 祇園丸山
京都府京都市東山区小松町566-15
電話 075-561-9990
営業時間 (昼)11:00~13:30(最終入店)
(夜)17:00~19:30(最終入店)
定休日 不定休